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2008年12月10日 【第2回コラム】  聴竹居雑感
副支部長:片山 勢津子(京都女子大学)


 天王山の麓に建つ聴竹居は,藤井厚二の 5 軒目の自邸(実験住宅)である。周知の通り日本の風土や環境に配慮した環境共生住宅であり,和洋の調和を図ったインテリアや細部のこだわりのデザインで知られる。

今回,私にとっては2度目の見学だったが,新たに設置された椅子に座って,住宅としての生活感を少しだけ味わうことができた。当日,使われていた関室(書斎)を見学できたことも,住まいを体感するには幸運だった。

竣工当時, 12,000 坪の広大な敷地に実験住宅や茶室が点在し,さらにテニスコート,プールが整備されていたという。だとすれば,室内から縁側越しの眺望も,和風に近い今のイメージとはかなり違っていたと思われる。壁や天井に貼られた鳥の子紙はすっかり色褪せて痛んでいるが,当初の色彩を想像すると,眺めは,ぐっと明るくモダンなイメージに修正される。聴竹居の竣工は 1928 年,まさにアールデコの時代に相応しい建物だったのである。

この家の中心は居間だが,デザイン的に洗練された食堂や客室,縁側と異なり,凸凹のある何とも曖昧な空間である。コンパクトにまとめられた食堂や客室に比べるとかなり広いが,藤井は夫婦用の2脚のソファーだけを置いていたという。今,当時のように居間に置かれたソファーに座ってみると,この場所が,人や空気や様々な気配が,絶えず通り抜ける場所であることが実感できる。そして,この家が住まいの様々なシーンに対応できるように作られていることが解る。

どのシーンも格好良く作られている。例えば,接客のための床の間と音響設備(蓄音機)付き客室,来客を庭園から導く縁側の入口,視線を集める左右に広がる縁側からの眺望,読書室にいる子ども達の気配,舞台に見立てることのできる和室,家人の出入りを見守る仏壇と神棚,移動する度に目につくマッキントッシュ風の時計,家の中央を照らし出す円形の3つの照明器具,分離派風のフレームに囲われた食事の場,調理室から食事を出すことを想定して作られた棚・・・そうした様々なデザインが,場面とともに想像できるのだが,寝室へのプライバシーは1枚の扉でしっかりと守られている。居間に座っていると,この場所の役割とともにこの家の間取りの意味が納得できる。

一方,関室は母屋の伸びやかな空間とは対照的である。数寄屋の低く饒舌な天井と飾り棚に微妙な角度で付けられた戸袋のデザインは,謎だ。何を考え,デザインにしたのだろう。ここで,藤井は思索に耽っていたのだろうか?彼がもう少し長生きしてくれれば,もう少し日本のデザインも洗練された形で継承されていたのではないだろうかと,思ってしまった。

49 歳で亡くなったことを惜しむとともに,この建物が社会的遺産として末長く保存されることを切に望む。