【第1回コラム】

【書評0001】 【第3回コラム】    
「知の発見」双書/創元社/ 2006 年

「ル・コルビュジェ 終わりなき挑戦の日々」

     
ジャン・ジャンジエ著/藤森照信監修/ 遠藤ゆかり訳

ISBN: 9784422211862/NDC分類: 523.35
小宮 容一(芦屋大学)

 コルビュジェに関する本は、実に多い。本書は、まず著者に特徴がある。著者ジャン・ジャンジェは、フランス国立行政学院卒であり、文化省で美術教育と建築教育を担当する。ここで建築と関係して来る。建築創作局局長等の後、 1971 年にル・コルビュジェ財団の委員、後に委員長を努める。という経歴で、文章の淡々とした調子は、公務員的と云うか、事務方的である。他書、例えばパルコ美術新書「ル・コルビュジェ」の著者ノルベルト・フーゼの語り口は、コルビュジェの言葉を引用しながらも、独断的解釈で進んで行く。これに比べると、本書は同じ評伝の書であるが、誕生から死亡まで、事実の羅列となっていて、公正で安全な書と云える。

 この公正さのこだわりは、誕生から「エスプリ・ヌーボー」誌にル・コルビュジェの名前を使うまで、本名のシャルル・エドゥアールで記述している点に見られる。 33 歳までシャルル・エドゥアールだった。オーギュスト・ペレの事務所で働いた時( 21 歳)も、ドミノ・システムを考案した時( 27 歳)もシャルル・エドゥアールだった。と云う事実。本名からの離別のドラマチックな記述はない。記述は、「 ---彼らはさまざまなペンネームを使って、実際の執筆者よりもたくさんの人が寄稿しているように見せていた。シャルル・エドゥアールがル・コルビュジェという名前を使うようになったのは、このときからである」となっている。名前の由来は、「---母方の祖先にはベルギー地方に住んでいた人物もおり、そのひとり、ルコルベジェという人物の名前から、---ル・コルビュジェというペンネームを考案し、最初は雑誌の記事や著書で、のちには造形作品や建築設計図でも使うことになる。」としている。

 インテリア・家具に関する記述は、第3章 「開花」の章の住宅設備の項で、「 ---1927 年にはミース・ファン・デル・ローエとマルト・シュタムがワイセンホーフの住宅計画で金属の枠組みを持った家具を発表した。ル・コルビュジェも、ピエール・ジャンヌレと、 1927 年 10 月に入ったシャルロット・ペリアンと共に、 1928 年に家具シリーズをつくり、チャーチ邸とラ・ロッシュ邸の内装に使用した。」と淡々とした記述となっている。

 最後の資料編は、コルビュジェ他の書簡、著書等の抜粋からなり、前半の評伝を補完する形となっており、理解度を深めるのに恰好である。

 各ページ、スケッチ、写真が豊富で、見ても読んでも知識の高まる好書である。コルビュジェを良く知る人は復習の書として、良く知らない人には予習の書として、お勧めできる書籍である。